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特別対談

ICT教育における「toio」の可能性と未来

東京理科大学 教授 滝本宗宏さん、toio開発者 田中
東京理科大学 理工学部 情報科学科教授 
滝本 宗宏さん
toio開発者 
田中 章愛

情報科学のスペシャリストであり、
「流山市GIGAスクール構想」のICT教育推進顧問でもある滝本教授と、toio開発チームの田中による対談が実現!
ICT教育の可能性と未来について、存分に語っていただきました。

ICT教育は子どもたちにどんな影響がある?

――まずは滝本教授、toioも参加するICT環境整備の取り組み「流山市GIGAスクール構想」に、ICT教育推進顧問としてご参画されることになった経緯を教えてください。

滝本:私の所属する東京理科大学は、地域貢献の一環として、千葉県流山市・野田市と包括的な連携を組んでいます。野田市教育委員会とは、以前からパートナーシップ協定を結んでいて、私自身も小・中・高校へ出向いたり、大学に児童や生徒さんに来てもらって、情報系の授業をおこなってきました。
流山市では今後、教育全般のICT化を目指すということで、私の専門を通してご協力できればと思い、ICT教育推進部門を担当することになったんです。

――報道では、"世界と比べて日本のICT教育は遅れている"という記事を目にする機会もあります。実際にはどのような現状にあるのでしょうか?

滝本:日本はこれまで、系統立ててICT教育をおこなってきたわけではありません。プログラミング教育の必修化が2020年と、まだはじまって間もなく、今後どうなっていくのかは海のものとも山のものともつかないんです。
私自身は、文科省のプログラミング教育の概要について、系統立てているとは言えないと思っています。「何を」学習するのかは書かれていますが、「どのように」学習するのかが書かれていない。現場まかせにされたら先生方も困るでしょうから、そこをちゃんと考えていく必要がありますね。
文部科学省や総務省が連携して、小学校向けのプログラミングについての説明や、教師向けに実施事例などを掲載している「プログラミング教育ポータル」の取り組みも、個別の事例になってしまっているので、系統立ったものになるのか少々疑問に思っています...。
そんな中、「流山GIGAスクール構想」では、流山市と東京理科大学、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、内田洋行という産官学が連携します。この機会は、系統立てて統合化されたプログラミング教育をおこなう千載一遇のチャンスではないかと捉えています。ぜひ実現して、全国のロールモデルとして発信していきたいです。
そのためには、私たちが提供するICT授業のコンテンツは、流山市に限ったものではなく、どの地域でも使えるものにしていくことが重要だと考えています。流山市を全国のロールモデルとして、私たちが集積したコンテンツをうまく使ってもらって、全国的に統合型プログラミング教育が進めば理想的ですね。

――「流山GIGAスクール構想」をはじめとするICT教育が本格的に普及したら、子どもたちにはどのような影響があると予測されますか?

滝本:パソコンの原型をつくったといわれるアラン・ケイは、1972年に発表した論文に「A Personal Computer for Children Of All Ages(すべての年代の子どもたちに対するパーソナルコンピュータ)」と書きました。そこに載っている挿絵では、子どもたちが地面に座り、スマホやタブレットのようなものをいじっている未来像が描かれているんです。アラン・ケイからすれば、スマホやタブレットは、コンピュータの最終形態と言えるのかもしれません。ひと昔前のコンピュータよりもよっぽど性能が高く、それぞれがネットワークにつながっている、そんな立派なコンピュータを、仕組みについてなにも知らない子どもたちがあたり前に使う。それが今の情報化社会です。
ネットワークを使ったコンピュータの世界は、無法地帯で"なんでもあり"です。その環境は、昔より今の方が悪くなっています。そういう世界に子どもたちが何の知識も持たずに入るのは危険ですし、逆にビクビクしながら使って、情報化社会の恩恵を受けられないのももったいない。
ですから私は、ICT教育は子どもたちが情報化社会の中で自分の身を守りながら、その恩恵を目いっぱい受けるための、基礎的な知識を身につけるものになるべきだと思っています。

――ICT教育は、子どもたちだけではなく生涯学習や地域課題の解決にも寄与する可能性があるそうですね。

滝本:はい、大いにあります。ICTは子どもたちだけが使うものではないですからね。
重要なのは、関心を持たない人たちにもICT教育に触れる機会を増やし、その重要性への気づきを得てもらうことではないでしょうか。そういう意味で、子どもと一緒に親御さんや祖父母が参加できるようなイベント、たとえばコンピュータ教室などがおこなわれると、よいかもしれません。ICT教育を受けている子どもたちが、おとなたちへの呼び水になるはずです。

プログラミングの本質を理解するために

――「流山GIGAスクール構想」では、toioも重要な役割を担います。滝本教授がはじめてtoioを使ったときのご感想を教えてください。

滝本:私も教育用ロボットはいろいろと使用してきましたが、その大半は"プログラムをつくる"ことではなく、"ロボットを動かす"ことが目的になっています。けれどtoioは、プログラムを書くと、その通りにちゃんと動いてくれる。プログラミング教育を体感するための現身(うつしみ=現代に具現化された姿)であるような印象を受けました。
廉価であり、複数台が連携できる点も魅力で、教育機関も導入しやすい。レゴ®ブロックと組み合わせられる点もユニークだと感じましたね。

――田中さんは、toioは開発当初、教育ツールとしてはお考えになっていなかったそうですね。滝本教授をはじめ教育関係者からも高く評価されていることを、どのように受け止めていますか?

田中:本当にうれしく思います。おっしゃる通り、toioは最初から教育用ロボットとして考えていたわけではなく、子どもたちの遊びの選択肢、使いこなせる道具のひとつでありたいと考えていました。
一般的なロボットキットは通常、組み立てて動かすまでにかなりの時間がかかります。けれど重要なのは、動かせるようになったその先に何がやりたいか、だと思っています。プログラミングによって身のまわりの問題を解決したい、新しいゲームをつくりたい――そういう思いにスピーディに応えつつ、たのしさを感じられるのがtoioです。そういった特長が、結果的に教材として授業で使うのにも手軽でおもしろく、本質的な内容に集中できるものとして評価をいただいたのだろうなと、改めて思いました。

滝本:たしかに、たのしいというのは重要です。toioは準備や設定が容易なので、すぐにたのしさに到達できますよね。

――toioが複数のプログラミング言語に対応しているという点は、いかがでしょうか?

滝本:初心者に使いやすいプログラミング言語に対応しているのはよいですよね。
文部科学省は「小学校プログラミング教育では、プログラミング言語に習熟することが目的ではない」と言っていますが、それが意味するところは、プログラミング言語から遠ざかろうということではないんです。
たとえば日本人が、日本語をしゃべれるようにならないと論理的な思考ができないのと同じように、プログラミングの本質を理解するためには、言葉が必要です。そのためには、プログラミング言語をちゃんと理解しないとダメだと私は思います。toioなら複数のプログラミング言語に対応しているので、個々の言語に習熟しながらも、プログラミング言語の本質を理解することができるでしょう。

田中:滝本教授がおっしゃったように、toioを複数のプログラミング言語に対応させたのには、「選択肢が多ければ、結果的にいろいろな使い方をしてもらえる」という思いがありました。世の中にたくさんのプログラミング言語があるのは、それぞれに向き不向きがあるからです。toioを使うことで子どもたちが広い視野を持ち、問題の本質や解決課題を大事にして、そこに合うプログラミング言語を使えるようになってもらいたいですね。

"現実で触れられる"toioのメリット

――toioはモニター上で操作するのではなく、手で触れられる点も大きな魅力ですよね。この要素は、学びの精度の向上に関係しますか?

滝本:プログラムの世界も、現実世界を取り入れる形で発展してきていることは確かです。現在のソフトウェア開発で業界標準になっているつくり方は、「オブジェクト指向プログラミング」といいます。オブジェクト、つまりはモノですね。
プログラムは、コンピュータが実行する命令の集まりですが、あたかも現実のモノであるかのように表現する。それがプログラムの部品になり、組み合わせて大きなソフトウェアをつくるんです。
toioはプログラムの中でモノとして表現されて、かつそれだけでなく、ポコッと現実世界に存在しています。

田中:現実世界のよさは、自分が生まれたときからずっと暮らしていることで、その環境を知っているところだと思っています。はじめてプログラミングの世界に入るのは、突然知らない国に放り出されるようなもの(笑)。知らない言語を話している人に囲まれ、右も左もわからない状況...。そんな世界でなにかしらの問題が起きても、思考停止で終わってしまいそうですが、現実世界ならば、プログラムを間違えてロボットが動かなくなっても、何が起こったのかが理解しやすく、対処法も考えやすいです。
toioであれば、このように現実世界の利点を活かすことで前提知識を少なくできるため、プログラムの本質に集中できますし、実際に触れることが、感情移入のしやすさや集中力にもつながっていると感じています

――田中さんはさまざまなワークショップなどで、toioで遊ぶ子どもたちと触れ合っていますが、どのような印象を受けますか?

田中:最近は遠隔授業も含めて関わらせていただいていますが、見ていて感じるのは、マニュアル通りに動かすだけじゃなくて、自分のアイデアを試してみたいという気持ちで取り組む子が多いな、と。みんなでロボットを囲んで、「こういうふうに動かしたらおもしろいよね」というようなコミュニケーションやディスカッションがはじまるんです。
そこから、誰かのために体験を提供したい、誰かに役立つものを考えたいという気持ちにつながっているケースをたくさん見るので、そういうところが特に教育向きなのではないかと思っています。

滝本:toioが子どもたちの想像力を養っているんですね。そう考えると、toioを夏休みの自由研究の対象にするのもよいですし、それを親子で取り組むことで生涯学習にも絡んでくるかもしれませんね。
私自身は、ICT教育はプログラミング教育で終わりではないと思っています。プログラミング教育で学んだ"プログラムが動く仕組み"などをベースに、情報化社会の仕組みを理解することが、その先にあるテーマだと思っているんです。
たとえば、なぜネットワークはおたがいに通信ができるのか? 世界中とつながれる仕組みというのは、ちょっとコンピュータをかじった人も、いまひとつわかっていないんじゃないでしょうか。せっかくtoioを使ってICT教育をおこなうのであれば、どのように情報がほかのコンピュータに到達するのかを実演して見せ、それをベースに情報化社会を直感的に理解してもらえるとよいと思います。学校でその時間が確保できるのかというところも含めて、これからの課題として考えていかなければいけませんね。

――子どもたちがプログラミングを学ぶにあたり、親御さんはどのような準備が必要でしょうか?

滝本:今、ちょうどtoioを使ったプログラミング教育をするための教材をつくっているところなんです。現場の先生方の労力を減らすために、こちらで動画を用意して自由に活用してもらう仕組みを考えていますが、それを親御さんも閲覧できるように公開したいですね。それを見れば「うちの子はこんな勉強をしているんだ」と理解できるでしょうし。

田中:子どもたちが学んでいることを親御さんに知ってもらうのは、すごく大事だと私も思います。 toioは目の前で動いているので、端から見ても理解しやすいですし、途中から参加して一緒に考えるのも容易です。
さらに言えば、積極的に一緒に遊んでほしいし、プログラミング対決をしてもいいくらいではないでしょうか。プログラミングに触れたことがない方でも「こんな感じで動くんだ」という感覚が共有できますし、本業のプログラマーの方はなおさら、toioなら本気で遊べるはずです。ロボットプログラミングは、子どもだけでなくおとなにとっても、これからますます大切になってくる体験だと思います。苦手意識を持たず、親子でボードゲームをたのしむ感覚で体験してもらいたいです!

――また、toioは現代の感染症とともに生きる社会においても、なにか役立てるでしょうか?

滝本:はい、toioはそこにひとつの道を示すのではないかと、私は考えています。
東京理科大学理工学部は今、「融合教育」を掲げています。大学では、学科ごとに分かれてそれぞれが専門分野を研究していますが、現実にある問題を解決するためには、みんなが協力しないとできない側面もあります。
そこで相互理解を深めるために、学生が一堂に介し、各学科の先生に研究内容を解説してもらうような授業をしたいという話が上がったんです。けれど現実には、一学年1,000人を超す学生が集まれる場所がない。実現するためには、集まる教室を分けてリモート授業のような形でつなぐか...という話になります。
toioならば、toioをアバター(分身)として操作するという手があります。toioを動かしてミニチュアの教室の席に座り、隣のアバターの学生に話しかけたり、壇上には先生がいたり。そういう授業のやり方が実現できたら、おもしろいですよね。

田中:とても未来的な授業ですね!
私がtoioのこれからの使い道ということで考えていることは、今はリモート会議や授業があたり前になりましたが、物理的な体験を共有するのはやっぱり難しいですよね。そこで、たとえばリモート飲み会でみんなが同じ食べものや飲みものを用意して一体感を上げるように、"できるだけ同じ環境を共有する"ことが大切になってくると思います。
モジュールとしての個体差がなく同じように動くtoioを使えば、離れていても同じプログラムをリモートで動かすことで、同じ物理体験をした共感が得られます。滝本教授がおっしゃったような、みんなで遠隔コラボレーションをすることも、まったくの絵空事ではないと思いますね。

滝本:私たちもリモート授業をおこなっていますが、学生が隣の人とコソコソ話や相談をするようなコミュニケーションができない。物理的という意味は、現実では「この範囲には声が伝わっているけど、ほかの人には聞こえていない」という状況も、toioを介することで実現できるかもしれないですよね。夢物語かもしれませんが...そういうものになったらすばらしいと思います。

田中:2020年の世の中の変化があって以来、今すでにインターネットやリモート会議をすごいと思う人が誰もいないように、toioを含めたロボットが、すごいものではなくあたり前のものになるのが、私の理想です。あたり前というのは、まったく何も考えずに使っている状態ではなくて、最低限のルールやマナー、付き合い方を学んだ上で、ほどよい距離間や期待値で使いこなしている状態。コンピュータやインターネットも、そうして普及してきたのだと思います。
ロボットはなんでも言うことを聞いてくれるわけではないし、使い方の用途も限られている。でも、うまく使えば、快適にたのしく暮らせる。その感覚をみんなが持てるようになる、第一歩としてtoioを使ってもらえればうれしいです。

滝本:アラン・ケイはスマホのようなものの出現まで予想していましたが、その先は私たちが考えなくてはいけない。toioは「パーソナルロボット」になり得るんじゃないかと思います。ICT教育を経て、最終的にはひとりが1台ずつ持ち、パートナーのように常に自分のそばにいるような存在になるのではないでしょうか。